大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第一小法廷 平成5年(行ツ)167号 判決 1998年1月22日

神奈川県平塚市天沼九番七三号

上告人

荒井商事株式会社

右代表者代表取締役

荒井寿一

右訴訟代理人弁護士

白井久明

神奈川県平塚市松風町二番三〇号

被上告人

平塚税務署長 田沼靖朗

右指定代理人

渡辺富雄

右当事者間の東京高等裁判所平成四年(行コ)第一一〇号法人税更正処分取消請求事件について、同裁判所が平成五年六月二八日に言い渡した判決に対し、上告人から上告があった。よって、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人白井久明の上告理由について

平成元年法律第一二号による改正前の租税特別措置法六二条一項の規定が憲法一四条一項に違反するものでないことは、最高裁昭和五五年(行ツ)第一五号同六〇年三月二七日大法廷判決・民集三九巻二号二四七頁の趣旨に徴して明らかである。右と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。論旨は、採用することができない。

よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 遠藤光男 裁判官 小野幹雄 裁判官 井嶋一友 裁判官 藤井正雄 裁判官 大出峻郎)

(平成五年(行ツ)第一六七号 上告人 荒井商事株式会社)

上告代理人白井久明の上告理由

第一、租税特別措置法第六二条一項の定めは、憲法第一四条第一項に定める法の下の平等に違反するものである。

一、租税特別措置法第六二条一項は、「法人が昭和五七年四月一日から平成五年三月三一日までの間に開始する各事業年度において支出する交際費等の額は、当該事業年度の金額の計算上、損金の額に算入しない。」とするとともに、「当該事業年度終了の日における資本または出資の金額が一〇〇〇万円以下である法人については当該交際費等の額が四〇〇万円に当該事業年度の月数を乗じてこれを一二で除した金額を超える場合のその超える部分の金額」、「当該事業年度終了の日における資本または出資の金額が一〇〇〇万円を超え、かつ、五〇〇〇万円以下である法人については当該交際費等の額が三〇〇万円に当該事業年度の月数を乗じてこれを一二で除した金額を超える場合のその超える部分の金額」は、「当該事業年度の金額の計算上、損金の額に算入しない。」としている。

二、つまり、租税特別措置法第六二条一項は、交際費の損金算入限度額につき、期末資本額が、五〇〇〇万円を超える法人は〇円、すなわちすべて損金として認めないとするのに対し、同資本額が一〇〇〇万円を超え、五〇〇〇万円以下の法人は三〇〇万円、一〇〇〇万円以下の法人は四〇〇万円としている。

すなわち、本来、法人の規模が多くなるほど、交際費の支出額が増加するのに、大法人には損金算入を認めず、小法人については損金算入を認めているのである。

三、本来的にいえば、企業が事業を営むに当たって交際費の支出が伴うことは不可避であり、たとえば、販売促進のための交際費等を削減すると、売上が減少する事例はよく見受けられるところである。従って、本来交際費は当然に経費として損金となるべきものである。

しかしながら、この当然に経費と認められて然るべき交際費を損金に算入せず、租税特別措置法により、課税するに至ったのは、接待・餐応のための冗費の支出に対する社会的批判が生じたためである。

四、第一審の判決が租税特別措置法第六二条一項が憲法第一四条第一項に違反しないとする理由の立論をみるに、同判決は単に同条項が制定された経緯及び趣旨を論述しているにすぎず、前二項記載の方法による交際費課税が合理的である理由をなんら明らかにしていないものである。

(尚、控訴審判決は、上告人のこの主張には、何等判断をしていないものである。)

すなわち、第一審判決は、「交際費等に対する社会的批判にも中小企業と大企業との間にはおのずから差があるとする」が、「おのずとから差がるとする」実証的な根拠はなんら示していない。

そして、同判決は、「資本蓄積の促進から交際費等の支出自体の抑制に重点が移された」として、租税措置法第六二条一項の改正理由を述べているが、このような交際費課税がされているため、かえって、課税を免れるため、小法人に会社を分割したり、事業規模が拡大しても、資本額をふやさないとする法人も多々あり、この交際費課税の不均衡、不平等が、企業基盤の基礎となる資本の本来的な意味での充実を害しているとも言えるもので、この規定自体著しく不合理なものとなっている。

五、交際費の支出の増加に対する社会的批判は、一定限度以上の交際費に課税するか否か、もしくは交際費の費目の個別認定の問題である。

企業の資本的蓄積の問題は、大企業、中小企業共通の問題であり、かえって、会社としての実質を有していない中小の株式会社の資本的蓄積がなされていないことの方が問題である(商法の改正により、最低資本金の額が引き上げられた理由は、中小会社の資本的蓄積を促すためである。)

中小企業と大企業との間に、交際費等に対する社会的批判が、「自ずから」差があるとする立論も、大企業悪人説に過ぎず、なんら実証的なものではない。

これに対し、販売促進費のうち、広告宣伝費等交際費以外の費用は全額損金に算入されるのに対し、業種、取引先、末端消費者の相違により、販売促進のための交際費の支出割合の多い法人は、交際費が少なく広告宣伝費等の比重の高い法人に比べて課税上不利益を受けるものである。原告はまさしく、一般消費者ではなく、卸売り業者等を取引先とする法人であり、交際費課税により不利益を受ける法人であり、かかる不利益を受けるうえ、更に、資本金の多額であることにより、課税されるという、不利益を受けることからしても、憲法上許される合理的な差別とは言えないものである。

六、もとより、上告人は、交際費課税それ自体の違憲性を主張しているものではない。

租税特別措置法第六二条一項が、交際費の損金算入限度額につき、期末資本額が、五〇〇〇万円を超える法人は〇円、すなわちすべて損金として認めないとするのに対し、同資本額が一〇〇〇万円を超え、五〇〇〇万円以下の法人は三〇〇万円、一〇〇〇万円以下の法人は四〇〇万円としている点が合理的な差別ではないとするものである。

上告人は、資本金が一億円であるので、交際費等として認定されたものは、全て損金とされず、課税されている。

しかしながら、前記の通り、資本金一〇〇〇万円以下の法人にあっては、四〇〇万円の範囲で損金への算入が認められている。これは、憲法第一四条の定めるところの法の下の平等に反するものである。

従って、政策的に交際費課税が認められるとしても、原告においても、少なくとも四〇〇万円以下の交際費等は損金への算入が認められて、しかるべきである。

七、被上告人は、原審において、「租税法の分野における取扱いの区別は、その立法目的が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することが」できないと、している。

しかしながら、租税特別措置法の第六二条の期末資本額の大小によって、交際費等の損金算入の限度額の「定め方」自体、国民の誰もが合理性を理解できない著しく不合理な規定となっており、右控訴人の立論を前提としても、憲法第一四条第一項に違反するものである。

以上

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例